2013年から始まったアベノミクス以降、日本の求人倍率は上昇傾向にあり、昨年度は2.07倍とかなり人手不足となっています。
しかし、その一方で、働く人の4割が非正規社員となっており、就職・転職する業界や、会社選びによって、収入面でも、仕事環境面でも大きく格差がついている状況です。
日本の働く人の数は、これからも減っていく一方なので、わざわざ条件の悪いところで働く必要はありませんし、企業の内情もネット上に広まってきているため、きちんと調べれば、どの業界がやばくて、どの業界がいいかの判断もつきやすくなっています。
そんな中で、この記事では、総合商社 について、取り上げたいと思います。
具体的には、
- なぜ、総合商社は絶好調なのか?
- 総合商社の収入・労働環境は?
- 今後10年〜20年という目で見た場合、総合商社は有望な業界なのか?
の3点を中心に解説していきます。
1、なぜ、総合商社は絶好調なのか?
ここ数年、過去最高益を更新している総合商社ですが、この好業績を牽引しているのが、鉄鉱石や液化天然ガス(LNG)、石炭などの資源関連事業です。
三菱商事・伊藤忠商事・三井物産・住友商事・丸紅の「エネルギー事業」「金属事業」「資源事業」の当期利益に占める比率を調べてみたところ、年々上昇傾向にあり、昨年2018年度は46%とほぼ半分を占めるようになっています。
5社合計の当期利益は、2兆円を超える規模に拡大
(参考:各社の決算資料から当サイトで作成)
ただし、2015年度の資源関連事業は、資源価格の下落によって伊藤忠商事を除いて赤字となりました。
2013年からの原油価格、銅価格の推移を見てみると、2015年に大きく資源価格が下落していることがわかります。
総合商社では原油や銅以外にも、多くの資源を取り扱っていますが、資源価格はだいたい同じように動く傾向にあるため、2015年の下落時にはそれまで高値で買っていた資産の再評価をしなければいけなくなって、赤字になってしまったんですね。
昨年2018年度も決して資源価格が大きく上昇したわけではありませんが、1度評価見直しで赤字を計上したたため、2015年度の水準まで下がっても業績への影響が小さくなり、最高益を更新しているわけです。
2、総合商社の収入・労働環境は?
このように業績が好調な総合商社ですが、実際に働く場合には魅力的な業界なのでしょうか?
給与や採用実績などの条件も確認してみましょう。
7社いずれも平均給与が1,000万円を超える
大手5社だけでなく、他2社も平均年収が1,000万円を超えており、条件的にもかなり魅力的と言えます。
また、離職率も年間1.2〜2.5%程度とかなり低めですので、福利厚生や有給休暇などの条件面でも恵まれているのでしょう。
総合商社は不良債権問題で2000年前後にリストラを行ってからは、この10年ぐらいは1度もリストラを行っていません。
そのため、平均年齢も41〜43才と高めで、終身雇用制度を維持している日本的な企業と言えます。
商社は新しい事業を開拓することで、利益を拡大させていく、人材ありきのビジネスなので、人件費を削減して利益を出す体質ではありませんから、このような好条件の会社が多いんですね。
3、これから10年後を考えた場合、商社は有望なのか?
おそらく、日本の大企業と言われる中では、もっとも将来も安心できる会社でしょう。
というのも、商社のビジネス範囲はアメリカから中国、アフリカまで幅広いため、国内で勝負をする産業のように需要が頭打ちにならないからです。
特にアフリカや中東は、2000年ぐらいまではほとんど経済成長ができず、産業も育ってきませんでした。石油や鉄鉱石などの資源価格がずっと安いままだったため、海外に輸出できる産業が育たなかったからです。
アフリカ・中東地域は、2000年ぐらいまでGDPが横ばいだった
しかし、その後は資源価格が上がってきたことで、海外へ輸出する産業が生まれ、都市化が進んでいます。
つまり、これから家や家電などを購入できる中間層が増えていくため、
- 石油やガスなどのエネルギー事業
- 太陽光発電などの発電事業
- 鉄鉱石などの資源事業
など、あらゆる分野でビジネスチャンスが増えていくはずですから、すでに現在、世界各国で事業を行なっている商社の強みが発揮されていくはずです。
米中貿易戦争の影響は少ない
また、最近は米中の貿易戦争によって、「日本はアメリカと中国のどちらを商売相手に選ぶんだ?」と選択を迫られています。
トランプ大統領は、「アメリカ・ファースト(アメリカの利益を最優先にする)」を掲げて当選した人なので、
- 海外の企業がアメリカで商売するのを排除して、自国の会社の商売を優先する
- お金がかかる海外での軍事行動をやめて、基地を撤退する
という方向へと向かっています。
そのため、アメリカでの売り上げ比率の大きい自動車産業や電子部品業界は、かなり大きな打撃を受ける可能性があります。
中国の携帯電話メーカー「ファーウェイ」がアメリカ市場から締め出されていますが、同じようなことが日本企業に対しても起こる可能性があるのです。
ですが、商社は米国にも中国にも依存度が低いため、売り上げへの影響も少なくて済むでしょうし、仮に影響を受けても、他の国を開拓することで乗り切ることは十分に可能なはずです。
ただし、伊藤忠商事は、中国の商業銀行(CITIC)へ6,000億円の投資を行なっているため、日本がアメリカ寄りの政策を進めていくとすれば、大きな影響を受けるかもしれません。
いずれにしても、商社の活路は今後も海外展開次第でしょうから、海外赴任も覚悟できる人でなければ、就職しても辛くなるでしょう。
まとめ
商社がこの数年間、過去最高益を更新しているのは、特に新興国の経済の発展によって、資源価格が上がり、開発案件が増えているからだと言えます。
しかも、昔からの日本型経営の企業が多いため、給料も高く安定し、福利厚生も十分なので働けるのであれば、これほど恵まれた環境はないでしょう。
今後も新興国の経済は発展していく一方なので、電機メーカーや銀行などのように潰れるリスクも少ないでしょう。採用枠は狭いですが、チャレンジする価値はある業界ですね。