(画像出典:wikimedia commons ,ロシア系アメリカ人作家アイン・ランドの肖像写真)
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この記事では、「お金とは何か?」「お金の本質とは何か?」について、アメリカの作家アイン・ランドの著作「肩をすくめるアトラス」の中の文章をご紹介します。
昨年は、ビッグモーターや損保ジャパンの不祥事が大きな話題となりました。
それ以外にも、ジャニーズや吉本興業、今年に入ってからは、小学館や日テレなどの不祥事がSNS上で大きな話題となっています。
一般の人たちの、これらの企業の不祥事に対する反応は、
「お金のためなら(お金さえあれば)、何をやっても許されるのか?」
「お金のためなら(お金さえあれば)、他人を平気で奴隷扱いしたり、喰い物にするような会社(組織)が存在してもいいのか?」
という疑問や憤りが多いように感じます。
このような名のある企業や組織の不祥事をたびたび目にしてしまうと、「お金儲けに走ることは汚いことだ」と感じつつも、「でも、お金がないと生きていけないし、、、」みたいな、相反する気分になってしまいませんか?
ですが、そもそも「お金」って何なのでしょうか?
この点について、いろいろな人や金融機関が解説しています。それらの説明は、読めば何となく理解できるのだけれど、それを知っても、「これからどう生きていけばいいか?」「どう行動すればいいか?」といったことがわかるわけではありません。
そのような時にオススメなのが、アイン・ランドの「肩をすくめるアトラス」という本に書かれている「お金とは何か?」の議論についての文章です。
この記事では、ほとんどの人が目にしたことのないであろう、この部分について、詳しく解説していきたいと思います。
1、アイン・ランドの「肩をすくめるアトラス」とは?
アイン・ランドは、1930〜50年代に活躍したアメリカの作家で、代表作として「水源」「肩をすくめるアトラス」などがあります。
ロシア生まれのユダヤ人で、共産主義時代のソ連時代のロシアからアメリカに亡命し、アメリカで作家として成功しました。
特に「肩をすくめるアトラス」は、アメリカの高校生に無償で寄贈されている本とのことで、アメリカ国内でも、かなりの影響力のある本として知られています。
出版された1957年から1984年までに発行部数は500万部を超えました。
また、2008年のリーマンショックが起こったときも、この本を読む人が増え、2009年には50万部以上、2011年にも44万部が売れました。
アメリカ人が経済的な苦境に陥ったときに、基本に立ち返るための書籍として、この本が大きな存在感を持っていたのです。
2、「お金とは何か?」その本質的な議論について
リーマンショック後に、この本があらためて読まれた理由は、マネーゲームによる株式バブルが崩壊したことで、本当の意味での「お金とは何か?」「お金を稼ぐということは、どういう意味があるのか?」について、考える人が増えたためだと思います。
そして、おそらくこの本が60年以上も長く読まれているのは、この「お金とは何か?」についての議論が、とても納得のいくものであり、人々を勇気づけてきたからだと思います。
ですが、全部で全三巻で、1,800ページ近くもあり、この「お金とは何か?」という議論は、二巻の120ページあたりにあるため、日本では、そもそもこの本を読んだ人はあまりいないでしょうし、語っている人も見たことがありません。
なので、ここからは、この一連の議論についての文章を抜粋しつつ、少しずつ解説(というか、私の解釈)を入れていきたいと思います。
ここから本題の「お金とは何か?」についての議論の解説です
この議論は、ニューヨークの富裕層が集まるパーティの中で、大企業家のフランシス・ダンコニア氏が、ある貴婦人に対して、「お金とは諸悪の根源だ」という議論に対する反論を行うところから始まります。
この部分は、かなり長いので、重要な箇所だけをいくつか抜粋してご紹介します。
(なお、抜粋した文章は、ネットで読みやすいように、改行と句読点、読み仮名を一部に加えています。)
①なぜ、お金が価値を持つのか?
「お金の根底にあるのが何かを考えたことがありますか?
お金は生産された商品と、生産する人間なくしては存在しえない交換の手段です。お金は、取引を望む人間は交換によって取引し、価値のあるものを受け取るには価値のあるものを与えなければならない、という原則を形にしたものです。
お金はあなたの商品をねだるたかり屋や、力づくで奪う横領者の道具ではありません。お金は生産する人がいてはじめて機能するのです。
これがあなたがたが諸悪の根源と考えるもののことでしょうか?
まず最初に、お金がなぜお金として、価値を持つのか?についてです。
お金があっても、買えるものがなければ、それはただの紙切れです。
ということは、お金で買える商品やサービスが存在しなければ、そして、それらを作る人がいなければ、お金は存在しないと言うことになります。
②なぜ、商品を作る人が存在するのか?
仕事の代償として金銭を受け取るとき、人はそのお金を他人の労力の産物と交換できるという確信があってはじめてそうするのです。
お金に価値があるのはたかり屋でも横領者でもない。涙で海を満たしても、世界の銃をかき集めても、財布の中の紙切れを明日をしのぐパンに換えることはできません。
その紙切れは本来金(ゴールド)であるべきだが、ある名誉の象徴〜生産する人間の活力を求める権利なのです。あなたの財布は、世界のどこかにお金の根源たる道徳律をおかさない人間がいる、という希望の証だ。
これが、あなたがたが諸悪の根源と考えるもののことでしょうか?
では、なぜ、人は商品を作るのでしょうか?
それは、その商品を売って手に入れたお金で、誰かが作った別の商品を買えると信じているからです。
わたしたちは、漠然と「お金がないと生きていけない」「お金があれば何でも買える」と思ってしまいがちですが、このお金に対する信頼は、自分以外の誰かが、いろいろな商品を作ってくれる、という信頼につながっている、ということに気づかされます。
③お金の根源=人の思考
生産の根源を追求したことがありますか?
発電機をみて、野蛮人が力まかせに作ったものだと言ってごらんなさい。小麦の栽培を最初に考え出した人が残した知識なしに、種の一粒でも育ててみることです。体を動かすだけで、食料を手に入れてみることです。
そうすれば、人の思考が、あらゆる生産物と、この世に存在したあらゆる富の根源だとわかるでしょう。
では、その商品とは、どのようにして作られるのか?
それは、生産者がいろいろと試行錯誤をして、作るわけです。より良い形にするため、より良い味にするため、より多くの生産をできるようにするため、などなど。
いろいろな条件を満たすような商品を作るには、頭を使って、いろいろ試して、改良を加えて行かなければいけません。
つまり、お金とは、交換できる商品がなければ価値を持たず、その商品は、人の思考を通じて作られるのですから、「お金=商品(富)=人の思考」だと言えます。
④取引は、WIN-WINの関係でなければ成り立たない
お金は、商人同士が互いの利益になると自主的に判断したときにだけ、取引を成立させます。
お金の存在によってあなたは、人は自分を傷つけるためではなく豊かになるために、損失ではなく利益のために働くと認識せざるを得なくなります。
それは、人は不幸の重荷を担ぐ(かつぐ)ために生まれた動物ではなく、相手には傷ではなく価値を差し出さねばならず、人間の絆は苦悩の交換ではなく良いもの(グッズ=goods)の交換だという認識です。
お金があなたに要求するのは、人の愚かさにつけ込んでおのれの弱みを売ることではなく、理性に訴えて才能を売ること。
人から差し出された粗悪品ではなく、お金の許す限り、最上のものを購う(あがなう=購入する)ことです。
そして人が武力ではなく理性を最終的な仲裁者とする取引によって生きる時に勝つのは、最高の商品、最高のパフォーマンス、もっとも優れた判断力と能力をもつ人間であり〜人は生産に応じた報酬を受け取るようになります。
これがお金を道具と象徴する存在の規範です。これをあなたがたは邪悪だと考えるのですか?
取引とは、売る側と買う側の合意の上で、成り立つものですから、お互いが「自分にとって得だ」と思わなければ成立しません。
売る側は利益が出ないのに売ろうとしませんし、買う側は満足できないものを買おうと思いませんからね。
そして、そのような経済活動を続けていけば、より良い商品(買い手を満足させられる商品)を作る企業や個人が生き残る、ということになります。
⑤お金はどうやって稼いだのか?が大事
お金は生きる手段です。その命の泉にあなたが下す判決は、人生に下す判決なのです。
泉を腐敗させれば、あなた自身の存在をののしることになる。
あなたは詐欺でお金を手に入れたのですか?
人の悪癖や愚鈍さにつけこんで?
おのれの能力が値する以上のものを愚か者の求めに応じて?
おのれの基準を下げて?
馬鹿にしている客のためにさげすんでいる仕事をして?
だとすれば、あなたのお金は、一瞬の、1セント分の喜びもくれないでしょう。
そして、あなたが購う(あがなう)ものはすべて、あなたへの賞賛ではなく非難に、業績ではなく恥の記憶となる。
やがてあなたは、金は邪悪だと叫ぶようになる。それが自尊心の代わりにならないから邪悪だと?堕落を楽しませてくれないから邪悪だと?
これが、あなたがたがお金を憎悪する原因ですか?
「悪銭身につかず」ということわざがありますが、これをさらに拡張した内容となっています。
詐欺などの犯罪でお金を稼ぐだけでなく、サービス残業をしたり、高額のお金をとって適当な仕事をしたり、自分がくだらないと思っている仕事をすることで得られるお金も、自分に対して喜びを与えてはくれない、という主張です。
まとめると、
というわけで、「お金とは何か?」についての議論の中で、大事だと思うポイントをご紹介しました。
まとめると、
- お金とは、商品とその商品を作る人がいなければ、存在意義を失う
- お金を稼ぐと言うことは、相手に価値を提供することで得られる対価であって、我慢や犠牲、憐みによって受け取るものではない
- 商品とは、より良いものを作ろうと試行錯誤をした結果できるものであり、人の思考が源泉となっている
- このようなプロセスで稼いだお金は、誇らしいと思うのが当然であり、「お金持ち=悪」みたいな考え方は間違っている
という感じでしょうか。
このように、お客さんにとって良い商品やサービスを必死になって作って、正々堂々と売って利益を得る、ということが、お金(を稼ぐこと)の本質というわけですね。
3、なぜ、このように思えないのか?
ですが、ここまでの内容に、「現実とかけ離れている」「説教臭い」「キレイゴトだ」「自分には無理」と感じた人もいると思います。
では、なぜそのように感じてしまうのでしょうか?
理由は、大きく2つあると思います。
(1)そもそも、属している世界が違う
1つ目の理由は、人間世界には、2つの相反する価値観があって、どちらの世界に属しているか、見えているかによって、まったく見え方が違ってしまうからです。
ジェイン・ジェイコブズという作家の著作に「市場の倫理・統治の倫理」がありますが、その中で、人間は生きていくために、大きく2種類の暮らし方をしていると言います。
それは「取る」ことと「取引する」ことです。
これらの2つの暮らし方によって、人は異なる価値観を持つ(何が称賛されて、何がイケてないのかを学ぶ)と言うのです。
これをわたしなりにまとめたものが、以下の表です。
「取る」価値観 | 「取引する」価値観 | |
特徴 | ・秩序を維持する
・目標を達成する |
・関係を維持する
・新しい発見や出会いを大事にする |
代表的な関係性 | 階層型(上下関係)
・軍隊、会社、官僚制、マフィアなど |
ネットワーク型(フラットな関係)
・友達、企業と顧客の関係、サークル、町内会など |
暴力について | 肯定的
・勇敢さ、剛気さを試す機会(マッチョ、男らしさを肯定) ・復讐は美徳(やられたらやりかえすべき) ・名誉を守るためなら、暴力も厭わない |
否定的
・脅しで取引すべきではないし、されるべきでもない |
取引について | 否定的
・取引=敵との密通となるため、裏切りと見なされる ・目的のためなら、積極的に欺くべき(戦争での騙し討ちや、兵法は肯定的な評価を受けやすい) |
肯定的
・契約を尊重し、正直な取引を心がけるべき ・自発的に合意すべき (納得のいく取引であれば合意し、そうでない取引であれば、拒否すべき) |
組織の特徴 | 軍隊的
・規律遵守 ・上下関係重視 ・伝統は大切にする |
フラットな関係
・他人や外国人とも、利害が共通するのであれば、積極的に協力すべき |
創造性について | 否定的
・伝統を守るべき ・決められたルール(掟)は絶対 |
肯定的
・前例を壊して、新しいものを作ることが称賛される ・創意工夫が奨励される |
世界観 | 世界は有限
・限られたパイの奪い合い ・競争=シェア獲得争い |
世界は拡張可能
・新しいものが生まれれば、世界はより豊かになる ・新しいもの、フロンティアへの憧れ |
特に、会社に勤めているサラリーマンの方は、自分が左側の「取る」価値観に近いことに気づくと思います。
そもそも、会社の中の組織が、社長、上司、部下、といった階層性になっていますからね。また、
- 上司の命令は絶対
- 拒否できない転勤
- お客さんよりも会社の利益優先
- ガマンが美徳、サビ残は隠れてやれ
- 派遣や契約社員は、都合の良いところで切ればいい
などの企業文化を持っているところも多いと思います。これらの要素は全て、「取る」価値観の持つ性質なのです。
というのも、「取る」価値観の中には、目標を達成すること(そのためには、手段を選ばなくても良い)を美徳とする文化的な背景があるからです。
特に上場企業は、株主からのプレッシャーが強いため、「利益を上げて存続し続ける、拡大し続ける」という目標に全力で向かいがちです。
そのため、このような会社組織で働いていると、目標達成のために、犠牲になる人が生まれてしまいます。
「お金はガマンや自己犠牲の対価」「人として扱われている感じがしない」などと感じてしまうのは、そのような体質の企業に当たってしまった結果でしょう。
(2)売れる商品・サービスを作るのが難しい
2つ目が、売れる商品・サービスを作ることが難しくなっているためです。
「肩をすくめるアトラス」が出版されたのは、1957年ですが、この小説に出てくる一流の起業家の多くが、鉄鋼業や鉄道、銀行などの、いわゆる重厚長大と言われる産業ばかりなのです。
ところが今はどうですか?
何を作れば売れるとか、できるできないは別としても、イメージできますか?
例えば、
- 洋服はユニクロやGUで十分な人は多いでしょうし、
- 食事も冷凍食品やレトルトが充実しています。
- ゲームはソシャゲなら無料でできるし、
- アニメやドラマは月々1,000円ぐらいの動画サイトで十分に楽しめてしまいます
そんな状況で、一体何を作れば売れるのか?普通の人であれば、詰んでしまいますよね。
その結果、個人で事業を行うことはムリと諦めてしまって、大きな会社に入って安定を求めてしまうものの、企業の「取る」価値観、利益追求の価値観に違和感を感じて、モヤモヤしてしまう、、、
というサイクルに入ってしまっている人が多いのでしょう。
4、最後に
かなり記事が長くなったので、最後に「肩をすくめるアトラス」の中で説明されるお金の根本原理、つまり、
「お金とは、商品無くしては存在できず、人の思考なくしては、商品は生まれない。そのため、人の思考だけが、富を生む源泉となる」
という考え方から、今の世界で起こっていることについてみた場合に、どのような評価になるのかを考えてみます。
(1)アルゼンチンの新大統領の政策について
毎年30〜50%、そして昨年2023年は、年率100%以上の物価上昇が進んでいるため、国家経済が破綻しているアルゼンチンですが、昨年の11月にハビエル・ミレイ氏が大統領に就任しました。
ミレイ氏は「リバタリアン」と呼ばれる、自由主義的な経済観を持っている大統領です。
アイン・ランドもリバタリアンの代表的な人物として見られており、世界や経済に対する見方は似ていると思われます。
そのミレイ氏が掲げている主な公約は、
- 中央銀行を廃止して、米ドルを国の通貨にする
- 16ある省庁を削減して、7つにまで減らす
- 国営企業の民営化
- 医療制度の民営化
- 減税
- 公共事業の大幅な削減
などが挙げられます。かなり過激な公約ですね。
これらの政策がどこまで進められるのかはわかりませんが、考え方としては、
「国が税金としてお金を徴収して、国民に再分配ばかりしていると、商品を作る担い手が育たないため、インフレ(お金の価値の下落)が止まらないんだ。だから、国の機能を思いっきり削減して、必死になって商品を作る人間を増やして、経済を立て直すしかないんだ。」
ということなのでしょう。
これらの政策のどの程度が実行に移されて、どれだけの効果があるのか、注目ですね。
(2)日本の止まらない円安
2022年ごろから、1ドル115円前後だった円ドルレートが、2024年2月現在で150円台にまで進んでいます。
円安は、日本の経済力の低下を示す指標の1つとして捉えられています。
実際、日本の貿易収支(輸出 ー 輸入)は、令和に入ってから、ほとんど赤字続きで、2023年は9兆円の赤字、2022年はなんと20兆円もの赤字でした。
資源のほとんどない日本では、自動車や半導体などの工業製品を作り、海外に輸出することで、石油などの天然資源を輸入でき、今の生活が続けられます。
それが、赤字続きなわけですから、ようするに海外に対して「稼ぐ力」が落ちているわけです。
その理由はいろいろ考えられますが、1番大きいのは、高齢化でしょう。
具体的には、
- 高齢化が進んでいる=働かない・商品を作らない人が増えている
- 年金や介護の費用が増加=税率が高くなり、民間企業や現役世代の手元にお金が残らない
- 日銀の異次元緩和政策=株価・不動産価格の上昇で、一部の企業や個人だけが潤っている
などが挙げられます。
高齢者がどんどん増えている日本では、国による徴税・再分配の機能がさらに大きくなっており、まさに以前のアルゼンチンのような状況に進んでいると言えます。
というわけで、ちょっと長くなってしまいましたが、この記事はこれで終わりたいと思います。
もし、興味があれば、ぜひ、「肩をすくめるアトラス」を手に取ってみてください。オススメです。
肩をすくめるアトラス(一巻)
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